大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和30年(さ)3号 判決 1957年2月05日

主文

本件につき相川簡易裁判所が被告人に対し略式命令をした訴訟手続を破棄する。

理由

本件非常上告申立の理由は末尾添付書面記載のとおりである。

よって記録を調査するに、被告人本間ヒチは、所論のとおり、料理店を営み芸妓を雇傭中、使用者は満一八才に満たない女子を衛生又は福祉に有害な場所における業務に就かせてはならないにも拘わず、自己が雇傭する中原京子(当時一五才)及び有田和枝(当時一五才)を昭和三〇年四月四日より同年五月末日まで、芸妓として酒席に侍する業務に就かしめ、以て前示有害な業務に就業させたものである、との公訴事実につき、昭和三〇年八月二〇日相川簡易裁判所に公訴を提起せられると同時に略式命令を請求せられ、同裁判所は略式手続により同月二六日右と同一の犯罪事実を認定し、これに対し、労働基準法六三条二項、一一九条一号、昭和二九年六月一九日労働省令一三号女子年少者労働基準規則八条四四号、罰金等臨時措置法二条、刑法一八条を適用して、被告人を罰金三、〇〇〇円に処し、所論のとおり労役場に留置する旨の略式命令をなし、右命令は同月二八日被告人に送達されたが、正式裁判申立期間の経過により同三〇年九月一二日確定するに至った事実が認められる。

しかし、被告人は成人であるところ、少年法三七条一項によれば、かような成人の犯した少年についての労働基準法六三条(三項を除く)に関する同一一九条一号の罪に係る事件の公訴は、家庭裁判所にこれを提起しなければならないのみならず、裁判所法三一条の三第一項三号によれば家庭裁判所はかような事件については専属管轄権を有するのであるから、本件については何ら原審相川簡易裁判所は管轄権を有せず事件の本案について裁判をすることができないこというまでもない。従って、本件公訴を受理した原審としては刑訴法四六三条により本件について通常手続に従い同三二九条に則り管轄違の判決を言い渡すべきものであった。しかるに原審はこれをしないで、略式手続により前記のような本案裁判をしたのであるから、その訴訟手続は法令に違反したものであること明らかである。本件非常上告は理由がある。

よって、刑訴法四五八条二号に従い、本件につき右簡易裁判所が被告人に対し略式命令をした訴訟手続を破棄すべきものとし裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例